日月抄ー読書雑感 -29ページ目
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いのちを伝える児童文学

昨日のNHKTV「ホリデーにっぽん」で、「とどけ“いのちの児童文学”~70歳老夫婦の出版日記 」(NHK静岡放送局制作)の放映があった。これは浜名湖の南、静岡県舞阪町に児童文学作家の夫那須田稔さん(72歳)と妻敏子さん(70歳)が「ひくまの出版」 を立ち上げたルポである。この出版社は、地方唯一の質の高い児童文学を出版し全国に知られているそうである。うかつにも知らなかった。

戦時中、稔さんは中国ハルビンでソ連参戦など戦争の悲惨さを体験し、敏子さんは浜松で大空襲を体験。2人が40歳を過ぎてからこの出版社を立ち上げ、戦争体験からくる「命の大切さを」をテーマとした児童文学書を発行しづけてきたのである。TVではその出版の様子を追跡したもので、夫婦2人が妥協せずに討論をしながら出版までこぎつけるその迫力に圧倒されてしまった。

TVで元小学校の先生であった依田逸夫さんという方の「スミレさんの白い馬」という本を立ち上げるまでの様子が描かれていたが、内容、挿絵、本の帯まで検討していき、完成したときのその喜びの表情が映し出されていた。ある学校に依田さん、那須田ご夫妻が招かれ、この本の読み聞かせと戦争体験についての講話があったが、真剣にきく子どもたちの姿が印象的あった。稔さんが書いた大戦末期の国境を舞台に、日本人少年と中ソ混血の少女の交流を描き、日本児童文学者協会賞を受けた「シラカバと少女」は、30年を経た今も書店に並ぶロングセラーである。機会をみて読んでみたい。

この2人が戦争体験ばかりでなく精一杯生きている人の姿を物語化した本も出版している。滋賀県信楽の陶芸家神山清子と、白血病に倒れた息子との命の記録を綴った那須田稔・岸川悦子・共著の「母さん子守歌うたって」が「火 火」という題名で映画化され話題になっている。またご夫妻の次男・那須田淳氏も児童文学作家で「かれの「ペーターという名のオオカミ」 は平成16年度の「第20回坪田譲治文学賞」を受賞している。彼は現在ドイツ在住でそこから「ベルリン青熊ラジオ那須田淳のBLOG」 を発信している。

那須田稔著  シラカバと少女 講談文庫 1976/11刊
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