「新書ラッシュ」に思う | 日月抄ー読書雑感

「新書ラッシュ」に思う

世は将に新書ラッシュである。昨日、朝日新聞社が「朝日新書」12冊を出版した。その12冊の題名を見て驚いた。その一部を紹介すると、


「御手洗冨士夫『強いニッポン』」(構成・街風隆雄)
「使える読書」(齋藤孝著) 
「サラリーマンは2度破産する」(藤川太著)
「新書365冊」(宮崎哲弥著)
「日中2000年の不理解」(王敏著)
「妻が得する熟年離婚」(荘司雅彦著)
「情報のさばき方――新聞記者の実戦ヒント」(外岡秀俊著)
「天皇家の宿題」(岩井克己著)
「安倍政権の日本」(星浩著)

余りにもジャーナリステックで、時流に即した内容といえる。長い間「岩波新書」を愛読してきたものにとっては「進歩主義」を任じてきた朝日の腰の軽さにおどろざるを得ない。

岩波新書は1938年出版されたが、日中戦争が拡大し言論思想が厳しい中で出版を通じて学術と社会に貢献することを願い、この時流に抗して「岩波新書」を創刊したといわれる。1949年「岩波新書」は「再出発に際して」として、世界の民主的文化の伝統を継承し、科学的にして批判的な精神を鍛え上げること」、1970年には「戦後の歴史が大きく転換している現実に直面し知性をもってこの時代閉塞を切り拓こうとしている人々にその要請にこたえる精神の糧を提供する」、さらに1889年には創刊50年の新版の発刊に際して、buわが国が独善偏狭に傾く惧れがあることを憂い、「豊かにして勁い人間性に基づく文化の創出」を強調している。

この岩波主張には青臭く愚直であると批判する向きもあろうが、政治、経済、社会、歴史、文化、科学の分野にわたり「現代人の現代的教養」として私の書架に数百冊の本が色あせながら横たわっている。今でも参考になる内容も多く古典的に要素も備えている。

しかるに最近の新書ブームはどうだ。「バカの壁」、「さおだけ屋だけがなぜつぶれないのか?」などミリオンセラーを狙った本が主流である。この本が悪いのではなく、すぐ役に立つ効率優先、売れっ子の執筆者を追いまわす編集者の責任が大きく、売らんがため姿勢が目に付く。今回の「朝日新書」の題名をみて「朝日よお前もか」という感じである。


私は何も「岩波新書」が全てよいとは思わないが、長い歴史を経てきただけに、何か一本筋が通っているような気がする。鹿野政直氏が「書いた「岩波新書の歴史」を読むといっそうその感を強くする。

鹿野政直著  岩波新書の歴史  岩波新書 2005年6月刊