藤沢周平の世界 | 日月抄ー読書雑感

藤沢周平の世界

今日午後からNHKで9月24日に鶴岡市で行われた公開録音シンポジュウム「藤沢周平の世界を語る」 の放送があった。司会が松平定知アナウンサー、パネリストは半藤一利氏(作家) 村上弘明氏(俳優) 松田静子氏(藤沢周平文学愛好会顧問である。半藤さんは「ノモンハンの夏」「昭和史」などの著書がある作家であるが藤沢作品愛好者としても知られている。村上さんはNHK時代劇「腕におぼえあり」(原作用心棒日月抄)の主人公青江又八郎を演じた方であり、松田さんは地元の藤沢周平研究家として知られている方である。

司会の松平さんが3人のパネリストに藤沢作品の一番好きな愛読書を聞いた。半藤さん 「泣くな、けい」をあげた。これはけいが相良家に奉公しいじめにあい主人の波十郎に犯されながら恨みもせず、波十郎が藩から預かっている短刀が行方不明になった時、それを取り戻すために江戸まででかけ主人苦境を救う物語である。涙なくして読まれないが硬派の半藤さんがこれをあげたの意外であった。

村上さんは「用心棒日月抄」をあげたが当然ある。主人公青江又八郎が藩の陰謀に巻き込まれ許婚者の父を切り脱藩、用心棒生活を強いられがら藩の危機を救う物語である。村上さんは俳優になるまでの苦しみを又八郎に重ね合わせたという。

また松田さんは「玄鳥」(つばめ)をあげた。主人公の妻、路が父の部下が暗殺されよようとするのを父からひそかに伝えられた「不敗の剣」を伝え救う物語であるが、毎年つばめが巣を組むが夫がそれを取り壊せということから話が始まり、松田さんは路が幼い日つばめをが来るのを皆で楽しみにしていた家族の団欒にを思い出すことから、家族の問題に着目し、藤沢作品の多面的な読み方が参考になる。

結局、藤沢が下級武士、市井の弱者に目を向けたのは、「いばらない」「権力になびかない」という彼の姿勢と底辺からもう一度「生きなおす者」への励ましではなかったかという結論に共感する。その背景には藤沢が育った郷土鶴岡の美しい山河、そして結核に倒れながら立ち直った彼の生き方も関係している。

この11月から毎週、朝日新聞社より、藤沢作品をビジュアルに紹介する「週刊藤沢周平の世界」 (30巻)が出版される。

  藤沢周平の世界   朝日新聞社発行  2006年11月~ 定価560円