楽しい郷土史 | 日月抄ー読書雑感

楽しい郷土史

地元、郷土の歴史「図説 横手・湯沢の歴史」が出版された。これは地方出版社で定評のある長野県の「郷土出版社」 が、全国各地方毎のの歴史を写真、図版を多く載せ、平易な解説したユニークな郷土史である。単なる古代から現代に至る通史ではなく、その地域の時代の特色を示す項目を約100に選定してどこから読んでも楽しく読める。

執筆者も大学の先生ではなく地元の歴史研究者あり、(元)教師、会社員、公務員と様々であり、それぞれ得意分野を分担して執筆している。この地は横手盆地を中心に数多い縄文遺跡、古代の「雄勝城」の建設、源義家の「後三年の役」戦場、戦国時代の小野寺氏の支配、更に山形最上氏の侵入、江戸時代、佐竹氏の移入、さらには戊辰戦争における戦場と、悠久の歴史のなかに色々な歴史のドラマの舞台となった地域である。

先史古代では縄文遺跡の紹介がなされているが、貴重な土器、石器などに興味が魅かれる。ただこの地方住んでいたと推測される蝦夷(えみし)の生活が出てこないのがきになる。中世の項目が少ない。これはこの当時の様子を示す古文書が少なくこの地を支配した小野寺氏の系図が複雑で、多くの地方史家の著書があるがそれぞれ見解が違い書きにくいというきらいもある。

さすがに江戸を中心とする「近世」の項目が圧倒的で、全体の3分の一を占める。その中で小野小町伝承(湯沢市小野)が農耕神話として発生したというユニークな見方、農民が新田開発に乗り出した3事例が挙げられるているのが目を引く。また秋田に住んだ江戸の紀行家菅江真澄の記録が引用されているのが特色。近代・現代においては地方文化、地場産業にも目をむけている。

以上この本を概観したが、実は私も依頼され2項目ほど執筆している。(学生時代の専門は農村社会学で歴史専門でない)その一つが江戸時代から今でも地元を流れる用水路「湯沢大堰」である。これは地元の富谷某が開削したというのが定説である。しかし聞き取りをしていくうちに別の人物も関わったことがわかる。その先祖を探しあてたが、その関係書類が40年前解体した蔵から出てきたが紛失したとのことである。このように地方史料には未だ埋もれたものがあるような気がする。この本は郷土を知る上で楽しく読める本であるが、価格が11000円で他人に勧めるのを躊躇している。

国安寛・土田章彦編集  図説 横手・湯沢の歴史  郷土出版