カタカナ語の多い新首相の「所信表明演説」 | 日月抄ー読書雑感

カタカナ語の多い新首相の「所信表明演説」

安倍新首相の「所信表明演説」を昨日TVで視聴しているうち、不謹慎にも居眠りをしてしまった。内容がつまらないからでなく、メリハリのない、やや早口の話し振りのせいかもしれない。今日改めて新聞で全文を読んでみてカタカナの言葉の多いのに驚いた。揚げ足をとるつもりはないが、その一部をあげてみる。

・活力に満ちたオープンな経済社会の構築
・アジアゲートウェイ構想
・イノベーション25
・新健康フロンティア構想
・ライブトーク官邸
・「カントリー・アイデンティティ」の発信

外来語が日本語として日常化してきているのは承知しているが、日本の今後の方向を決める政策の中に横文字カタカナが多いのに注目したい。確かに文章の前後を読むとその説明がついている。例えば「イノベーション25」は「成長に貢献するイノベーションの創造に向け、医薬、工学、情報技術の分野ごとの、2005年までを視野に入れた長期の戦略指針」だそうである。これだけではその内容はよく理解できない。

聞きなれない言葉は「カントリー・アイデンティティ」である。「セルフ・アイデンティティ」self identity(自己同一性)はよく聞くが、「country identity」はこれから類推して国家同一性と言うべきものだろうか?所信表明では「わが国の理念、目指すべき方向、日本らしさ」と説明している。新首相の周りにはブレーンとして某京大教授がついているからその入り知恵かもしれないが、この内容も具体的には分からない。東北の片隅にいる田舎親爺にとってはこのような耳障りのよいカタカナ言葉には戸惑うばかりである。

作家井上ひさしはその著書「私家版 日本語文法」の中に横文字カタカナについて述べている。それによると、NHK総合文化研究所が1973年全国規模の外来語調査の中で「横文字カタカナ」についての自由記述欄に次の内容が載っていることが紹介されている。「日本語が日本語でなくなりつつある」「日本語の美しさがこわされる」「日本語の語彙体系がめちゃくちゃになるだろう」「和製英語や略語は葯にたたたぬ」「耳できいてわからない。そんあものが日本語だろうか」約30年前の日本人の反応である。最近ではIT(ああ!これも横文字)発達で日本人は日本語に無神経になったのだろうか。新首相の唱道する「美しい国、日本」には「美しい日本語」が必要だと思うのだが。

井上ひさし著    私家版  日本語文法  新潮文庫  1984年9月刊