カニとエビ | 日月抄ー読書雑感

カニとエビ

北方領土・貝殻島付近で8月16日朝、根室のカニかご漁船第31吉進丸がロシア国境警備庁に銃撃・拿捕され、1人が死亡、2人の乗組員が帰還(30日)したが、船長は依然として拘束されたままである。今日のニュースによると船長に対する予備審問が9月11日に国後島古釜布の地区裁判所で開かれることが決まったそうだ。

この付近で獲れるタラバガニは1.5キロで1万円以上もするというからかなりの高級品である。元々は日本の領土であるから密漁拿捕はおかしいが、外交交渉は領土返還にいたっていないからどうしようもない。

日本のカニ輸入高は9万9千トン(2005年)で水産物の種類では12位にあたるが、その80%は輸入である。輸入国はロシア、カナダ、米国、中国である。ちなみに水産物輸入の第1位は圧倒的にエビで23万3千トン、その90%が輸入でブラックタイガー、ホワイト、むきえび等はインドネシア、ベトナム、インド、中国、タイ、フィリピン、ミャンマー、など東南アジアが輸入先である。、伊勢海老は日本の特産物だと思っていたが、オーストラリア、インドに頼っている。なぜこうも日本人はカニやエビが好きなのであろうか。

やや少し前であるが村井吉敬現上智大教授が「エビと日本人」(1988年 岩波新書)を著し話題をよんだことがある。それによると日本人は世界で取引されるエビの4割を消費(世界一)、1人当りにすると1年間に約3キロ、かなり大型サイズのエビで換算して、だいたい100尾を食べている勘定になるという。

もともと日本人がエビが好きなのでなく、日本の貿易収支の関係で、貿易黒字を解消するための輸入商品として、割と高価なエビをたくさん買い入れるようになり、私たちの食卓に上る機会が増えたのだそうだ。まったく国益の結果であり日本のグルメ志向に拍車をかけたというわけである。現在でもわれわれの食卓にはエビフライ、天丼、寿司、などエビを材料とした食品があふれている。

村井さんはこの本で特にインドネシアの現状にふれ、天然エビの漁獲の他に、養殖のものが増えているという。その結果川岸に繁茂しているマングローブ林の破壊、地下水の枯渇など深刻な環境破壊が起こり、現在も進行中という。エビ、カニというわれわれの飽食ともいうべき食生活の陰に、密漁(?)しなければならない日本漁民の生活問題や東南アジアの環境問題が横たわっているのである。

村井吉敬著  エビと日本人  岩波新書  1988年4月刊