エイドリアン・ミッチェルの詩 | 日月抄ー読書雑感

エイドリアン・ミッチェルの詩

岩波の「図書」に詩人アーサー・ビナード氏が「poetory talks」を毎月載せている。日本語の堪能なビーナードさんのこなれた訳詩を愉しみに読んでいる。今月号は英国の詩人エイドリアン・ミッチェルの短詩を紹介している。


Celia  Celia     Adrian  Mitchill

When I am sad and weary
When I think all hope has gone
When 1 walk along HIgh Holbon
I think of you with nothing on.

シーリア、いとしのシーリア

落ち込んだりくたびれたりしたとき
希望をすっかり見失ったとき、ひとり
ハイボールホーンを延々と歩くとき
ぼくはきみのことを思い浮かべるー
 す裸にして。

ビナードさんは「心底誰かにほれて大好きなその相手と一緒になると、ものの見方も変わり、みだらな空想も充実してくる。殺風景な幹線道路に沿ってとぼとぼ歩き、疲れた心の支えに、彼は恋人のシーリアを想う。二人は今、れっきとした夫婦だ。」と解説している。ビーナードさんの「with nothing on」=「すっ裸にして」の訳は、我々凡人にはとても思いつかない。

エイドリアン・ミッチェルを海外サイトで調べてみると、He has written large numbers of love poems and political poems.(彼は愛や政治的な詩を多く書いている。)と書かれ、上記のような詩ばかりでなく、ベトナム・イラク戦争に反対し平和を脅かすものへの嫌悪を詩に表現しているようだ。

その中に「To Whom It May Concern 」とベトナム戦争について書いた詩がある。最初の所だけ紹介する。(小生の拙訳)

To Whom It May Concern

I was run over by the truth one day.
Ever since the accident I've walked this way
So stick my legs in plaster
Tell me lies about Vietnam

  
拝啓

ある日、ある真実に気づかされた。
ばんそうこうを貼った足でこの道を歩いてきて
ある事件に遭遇して以来ずっと
ベトナムについての嘘を教えてくれ

詩は戦争について彼なりの感覚で平易な文章で深く捉えている。最後の部分に彼の本音が伺われる。

You put your bombers in, you put your conscience out,
You take the human being and you twist it all about
(あなた方は爆撃機を内におき、良心を外におく
 あなた方は人間を捕らえいたるところで歪めている。)

私はエイドリアン・ミッチェルという詩人を知ったことで満足している。

アーサー・ビナード作  看板倒れ  「図書」9月号  岩波書店 2006年9月刊