「お盆」考 | 日月抄ー読書雑感

「お盆」考

明日は「お盆」である。これはサンスクリット語のウラバンナを漢語で「盂蘭盆」になりそれが省略されて「お盆」になったといわれているが、柳田國男によれば、お盆は祖先の霊が家に還ってくる日であり、仏教の教えにない日本固有のものであるという説を唱えている。

柳田は、土地のよってこの霊を「ご先祖様」「ホトケサマ」というのが普通で、「ショウロウサマ」(精霊)という地域もあるという。この「精霊」は個人の霊魂であり、その精霊を「ホトケサマ」と呼んでいることに柳田は疑問を投げかけている。根本的にはお盆に還ってくるのは「仏様」ではなく先祖の「霊魂」であるというのが柳田の考えである。

それにしてもお盆の古くから伝わる民俗的風習が次第に失われてきている。以前には「ホカイ」といって墓地の前に精霊棚をつくり「食べ物」をを供える風習があった。棚の上に蓮の葉を置きそこにご馳走を供えるものであり、墓の近所の子供たちが虎視眈々とそれをねらっていた記憶がある。この風習も不衛生の名の下に無くなってしまった。柳田によると、秋田地方には「焼ホウカイ」といって盆の14日未明に餅を搗いて供える風習があったことを「秋田風俗問状答書」に書かれてあることが紹介されている。

柳田は「年中行事覚書」の中で、お盆に関して1.新精霊のある家のお盆のようす、2.盆棚の作り方と名称、3・万霊祭(家の先祖以外の所謂「無縁墓」の供養)、4.水手向け(鉢に水を盛って盆棚に供える場合水鉢に何を入れるか)、5魂迎え、魂送りのための食べ物名)、6.迎え火、送り火、7.盆小屋と辻飯(盆の終わりに少年たちが小屋をかけ煮炊きの食事をする風習)などを調べているが、柳田がいたころの時代と違いこれらの風習を殆ど調査不能になってしまった。

わが家に関しては、先祖以外の墓地を「無縁仏」として今でも手厚く祭り、「辻飯」も盆の最後の日、「送り火」にお握りを焼くことを最近まで続けていた。しかし、社会全体としては先祖の霊を祭るためのさまざまな民俗行事は殆ど無くなってしまった。

それにもかかわらずお盆の帰省ラッシュはすごい。新しいお盆の「年中行事」といってよいのかもしれない。明日のお盆に当たり、お墓や先祖に供える「盆花」の高価に家内は悲鳴をあげている。昔は自宅の畑、山野の花で間に合ったのに・・・。

柳田國男著  年中行事覚書(柳田國男全集16巻)ちくま書房 1990年5月刊