Little People | 日月抄ー読書雑感

Little People

5月、都立美術館で開かれた「プラド美術展」を見たが、残念ながら印象に残る絵が少なかった。むしろ2002年3月に西洋美術館で開かれた「プラド美術館展」のほうが今でも記憶に残っている絵が2枚ある。ゴヤの「巨人」とベラスケスの「道化師セバスティアン・デ・モーラ」である。片や巨人、かたや小人の絵とその対照的な点が忘れられないのだろう。

特に「セバスティアン・デ・モーラ」の小人の表情は衝撃的であった。その感想はホームページに「プラド美術展を観る」 の題で書き留めている。それについて「ベラスケスの作品の殆どは肖像画と言われている。今回はフェリッペ4世をはじめ数点の肖像画が見られたが、特に目を引いたのが小人を描いた「セバスティアン・デ・モーラ」である。道化や役者は宮廷で厚遇されたらしいが、モーラの悲しげであるが何かに挑むような表情から何を読み取ったらよいのであろうか」と私は感想を述べている。

今回たまたま写真家の榎並悦子さんの「Little People」の写真集を見る機会があった。小人症(Dwarfism)の人々理解が深まることを願って主にアメリカで密着撮影。年に一度、世界中から集まる会合(Little People of America)や、野球の試合、結婚式、仕事、家族、友人との時間など、彼らの暮らし写真が収められている。

写真集をコピーできないのが残念であるが、屈託のない明るい表情、特に男女の愛情表現が印象的である。榎並さんは「何度か通ううちに彼らが普通暮らしていけるアメリカ社会の包容力に気付いた。そして家族や周囲の深い愛情を知った。日本の社会も心のバリアフリーになるときが一日も早くくることを願っている。」と述べている。

ベラスケスの時代は、小人たちは道化師として人気があったらしいが、所詮は見世物であった。彼らに対する偏見はあったに違いない。日本おいても現在も身体的な弱者に対する差別は残っている。それに比べこのような人たちと同化しているアメリカ社会の包容力は学ばなければなるまい。それにしても移民国家であるアメリカが移民法の書き換えをし反移民政策が打ち出されるつつあるのはどうしてであろうか?しかし、多くの市民、高校生までもが反対に立ち上がったというから一般的には包容力があるというべきか。

なおこの写真集「Little People」は先日、平成18年度の「講談社出版文化賞を受賞した。

Little People―榎並悦子写真集  朝日新聞社 2005/6刊