米原万里さんの死を悼む | 日月抄ー読書雑感

米原万里さんの死を悼む

ロシア語の同時通訳として活躍し、エッセイスト、作家としても知られた米原万里さんが25日に亡くなり既に葬儀を親族で済ませていたことが昨日の新聞報道で知り驚いている。

米原さんの著書では、ノンフィクションの内容を含んだ小説に興味を惹かれその中の「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「オリガ・モリソヴナの反語法」 についてはホームページの読書録に「書評」を載せたことを思い出し読み返しをしているところである。

米原さんの父親昶氏は日本共産党の幹部で彼が国際共産主義運動の機関紙である「平和と社会主義の諸問題」の編集局(プラハ)に派遣され一家がその地に住み、万里さんはそこのプラハ・ソビエト学校(世界の共産党幹部の子弟の学校)に小学校4年とき転入し5年間学んでいる。

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」はこの学園で知り合った3人の少女と交流を描いたものである。圧巻は、30年ぶりに彼女らと再会する場面である。これについてはNHKの「心の旅」で放映されたと記憶している。米原さんは当時の激動する東欧の政治の動きに翻弄された少女たちを温かい目でユーモラスに描いているが、故国と過去を捨てたアーニャへの彼女の批判が題名にある「真っ赤な真実」の言葉になったものと思われる。

もう一冊の「オリガ・モリソヴナの反語法」はやはりプラハの学校の舞踊の先生の数奇な運命を描いたもので、スターリンの人権を無視した苛酷な時代を背景にそれにも耐えてその悲劇を乗り越えるために生きてきた一女教師とそれを支えた仲間の行動が感動的である。

米原さんは東欧で体験した事実を通してソビエトが指導した国際共産主義体制の矛盾をその内面から声高でなく静かに批判している。「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」はは80%がノンフィクションで20%がフィクションであったのに対し、「オリガ・モリソヴナの反語法」はその逆であると述べている米原さん気持ちが理解できる。

こよなく東欧の人々、そしてロシア人を愛し、ユーモアに溢れるエッセーや小説を残した米原万里。享年56歳 早過ぎる死を惜しむ。合掌。

米原万里著  嘘つきアーニャの真っ赤な真実  角川書店  2002/4再版
米原万里著  オリガ・モリソヴナの反語法    集英社  20002/10発行